【OECD参加報告】日本のデジタル戦略を世界の舞台へ ―OECD武内事務次長らと未来に向けた会談を行いました。
- HIDETO KAWASAKI
- 6月10日
- 読了時間: 5分
皆様、こんにちは。
先般、6月3日から4日にかけてフランス・パリで開催された経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会に出席してまいりました。
その翌日となる5日の朝、OECDで活躍されている武内良樹事務次長、科学技術イノベーション(STI)局のジェリー・シーアン局長、オードリー・プランク副局長と会談し、日本のデジタル政策や国際社会における役割について、深く、そして未来志向の意見交換を行うことができました。
本日はその模様をご報告いたします。

日本のリーダーシップへの高い評価
会談の冒頭、武内事務次長から、閣僚理事会における日本の存在感、特に私が登壇したセッションで各国から「広島AIプロセス」に多くの言及があったことに対し、非常に高い評価をいただきました。
2016年のG7香川・高松情報通信大臣会合から日本が主導してきたAIガバナンスに関する国際的なルール形成の議論が、着実に世界の共通認識となり、浸透していることを改めて実感する瞬間でした。
OECDという世界の政策議論をリードする機関の幹部から、日本の取り組みが評価されていることを直接伺い、これまでの関係各位のご尽力に敬意を表するとともに、身の引き締まる思いがいたしました。
「広島AIプロセス」の更なる推進に向けて
会談の主要なテーマの一つは、G7広島サミットの大きな成果である「広島AIプロセス」の具体的な推進です。特に、AI開発企業が自主的に透明性を確保するための「報告枠組み」は、信頼できるAIエコシステムを構築する上で極めて重要な取り組みです。
この点について、OECD側からは、日本の主要企業であるKDDI、ソフトバンク、NEC、NTTなどが、この自主的な枠組みに積極的に参加していることに対し、高い評価と謝意が示されました。現在、19の企業や組織がこのプロセスに参加しており、これは特筆すべき成功例です。
さらに、この成功をアジア全体へと広げていくために、日本がリーダーシップを発揮し、アジアの主要企業にも参加を働きかけてほしいとの強い期待が寄せられました。日本のイニシアチブを、地域全体の協力体制へと昇華させていく。そのための連携を、OECDと共にさらに強化していくことを確認しました。
AIの先へ ― デジタル社会の新たな課題への挑戦
議論はAIにとどまらず、メタバースやオンラインセーフティといった、デジタル社会が直面する新たなフロンティアへと広がりました。
メタバースの可能性と「デバイド」への懸念
私からは、総務省としても大きな関心を寄せているメタバースについて、その大きな可能性に触れると同時に、私が抱く強い懸念を提起しました。
それは、メタバースの利用に必要なVRゴーグルなどの機器が高価であることから、経済力によって体験の機会が左右される新たな情報格差、いわば「メタバース・デバイド」が生じかねないという点です。
この問題意識に対し、OECD側も深く共感を示しました。OECDではすでに、Global Forum on Technology(GFTech)の枠組みで没入型技術に関する議論を進めており、特に没入型技術が子どもに与える影響については、オンラインセーフティの観点から調査を進めていく予定であるとのことでした。
この重要な課題についても、今後、日本とOECDが緊密に連携し、誰もが安心してその恩恵を享受できるルール作りを目指していくことで一致しました。
オンラインセーフティとリテラシーの重要性
偽情報やオンライン上の危害から市民、特に子どもたちを守るオンラインセーフティも喫緊の課題です。我々からは、「情報通信プラットフォーム対処法の施行」や「Digital Positive Action」など、日本における偽情報対策の取り組みを紹介しました。これに対しOECD側からは、偽情報を見分ける能力を評価する国際調査「Truth Quest」の結果、日本が他国とは異なる興味深いパターンを示したことなどが紹介され、メディアリテラシー向上の重要性について意見が交わされました。
※余談ですが、Digital Positive ActionのTVCM、WebCMが公開されています!ぜひご覧ください。
この文脈で、私は最近、自分で立ち上げたPMT研究会に台湾の初代デジタル大臣であるオードリー・タン氏をお招きして政策形成におけるテクノロジーの活用について議論した経験を踏まえ、私は次のような懸念を表明しました。
現在、日本の各政党においてもAIの利用が始まっていますが、そのリスクを十分に理解しないまま安易に利用が進むことで、世論が不適切に誘導され、ポピュリズムを助長しかねない危険性があるのではないか、ということです。
AIを我々が賢く「使う」のではなく、AIに我々が「使われる」社会にしないために、国民一人ひとりがデジタル技術を正しく理解し、使いこなす能力(リテラシー)を向上させることが不可欠です。この問題提起に対し、OECDの専門家からも強い共感が示され、今後の重要な政策課題であるとの認識を共有しました。
日本の貢献が支えるOECDの活動
最後に、こうしたOECDの先進的な活動が、日本の人的・財政的な貢献によって力強く支えられていることについても確認し合いました。
OECDのデジタル政策委員会(DPC)傘下にある5つの作業部会全てにおいて、議長や副議長として議論をリードされている総務省の飯田洋一氏の活躍、そして同じく総務省からSTI局に派遣されている職員の存在は、OECDにとって極めて貴重なアセットであるとの言葉をいただきました。
また、AIツールキットの開発や広島AIプロセスの推進といった具体的なプロジェクトは、日本の自発的な財政的貢献(拠出金)がなければ実現が困難であったことも改めて強調されました。
日本の貢献が、世界のルール形成の最前線で大きな力となっていることを再確認できたことは、大きな喜びです。
結びに
今回の武内事務次長らとの会談は、AI、メタバース、オンラインセーフティといったデジタル社会の重要課題について、日本とOECDが共通の認識を持ち、強力なパートナーシップのもとで連携を深化させていくことを再確認する、非常に有意義な機会となりました。
世界のデジタル政策をリードするOECDと、これからも緊密に連携し、国際協調の場で日本のリーダーシップを発揮していく。そして、誰もが安心して、その恩恵を享受できるデジタル社会の実現に向けて、私も国政の場から全力を尽くしてまいる所存です。
ご一読いただき、誠にありがとうございました。
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