伊賀牛の伝統と革新に学ぶ - 三重県伊賀市
- HIDETO KAWASAKI
- 6月15日
- 読了時間: 4分
6月15日、農林水産大臣政務官の山本佐知子議員と共に、三重県が世界に誇るブランド牛「伊賀牛」の生産者の1人、中林正悦様の経営する中林牧場を訪れ、お話を伺いました。
牛舎のすぐ側で、牛がのんびりと過ごす姿を前に、生産現場のリアルな声をお聞かせいただく、大変貴重な機会となりました。
全国で唯一、伊賀に残る「相対(あいたい)取引」の文化

中林様のお話で特に印象的だったのは、伊賀地域だけで行われているという独特な「相対取引」という販売方法です。
通常、牛の取引は家畜市場での「セリ」によって価格が決定されるのが一般的で、買い手が価格を決める「買い手市場」になりがちです。しかし、伊賀では、生産者である中林様と肉屋さんが直接、牛舎で「この牛はいくらにしましょう」と交渉し、価格を決定します。 これは生産者が価格決定の主導権を握る「売り手市場」を実現する仕組みであり、生産者の生活を守る上で極めて重要な意味を持ちます。
この取引は、特定の肉屋さんと長年の信頼関係があってこそ成り立つもので、肉屋さんも自らの目利きで肉の量や質を見極める高い技術が求められます。 中間に卸売業者を挟まないため、余分な経費を削減できるメリットもあります。
国はセリ市場での取引を推奨していますが、中林様は「こういうやり方もありだと認めてほしい」と訴えます。自分たちのコストを把握し、買い手と直接交渉できるこの強みは、まさに生産者の生活を守るための知恵であり、守るべき独自の文化であると強く感じました。
日本ならではの「アニマルウェルフェア」
近年、ヨーロッパを中心に「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の考え方が重視されています。プロモーションで海外に行くと、日本の牛の飼育方法について質問されることも多いそうです。
中林様は、「日本は古来、牛を労働力として、家族の一員として大切にしてきた農耕民族。家族を野ざらしにはしないという考えから、牛のためにきちんとした部屋(牛舎)をしつらえ、そこで育てるのが日本人のやり方だ」と説明されているとのこと。
また、牛の角を取り除くことについても、「牛同士が穏やかに過ごせるようにするためであり、牛の安全を守るための処置だ」と丁寧に説明することの重要性を語られました。ヨーロッパの基準を一方的に受け入れるのではなく、日本の歴史や文化に根差した「日本のアニマルウェルフェア」の考え方を、国としてもしっかりと海外に説明していく責任がある、と改めて認識いたしました。
飼料価格の高騰と、生産現場からの提言

多くの畜産農家と同様、中林牧場でも、円安による輸入飼料の高騰が経営を圧迫しています。現在、飼料はトウモロコシや麦などを混ぜたものを利用していますが 、このコストは生産者の努力だけではどうにもならない大きな課題です。
そこで中林様から、「アメリカでは余っている稲わらを日本が輸入してはどうか」という興味深いご提案がありました。 牛にとって重要な繊維分である稲わらは、現在オーストラリアなどから輸入されていますが、アメリカ産の稲わらは検疫の問題で輸入が認められていないのが現状です。中林様は、この規制が時代に合っていないのではないかと指摘します。
また、国内での飼料米生産も、伊賀のような中山間地では大型機械が入れず、効率的な生産が難しいという現実があります。
現場の実情に合わせた、柔軟な政策の必要性を痛感しました。
今回の訪問を通じて、伝統を守りながらも、常に未来を見据えて革新を続ける生産者の皆様の力強さに感銘を受けました。現場の声を政策に繋げ、伊賀牛をはじめとする日本の素晴らしい農産物を未来に残していくため、山本佐知子政務官とも連携し、全力で取り組んで参ります。
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