NTTdocomo Business Forum 2025 視察報告
- ひでと 川崎
- 10月9日
- 読了時間: 6分
こんにちは。川崎ひでとです。
先日、総務大臣政務官として、日本のデジタル社会の未来を体感すべく「NTTdocomo Business Forum 2025」を訪問いたしました。
会場は、産業や地域のDXを加速させる最先端技術の熱気に満ちており、我が国が目指す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた具体的な姿を目の当たりにする、大変有意義な機会となりました。今回の視察で得た多くの気づきの中でも、特に我が国の未来を左右すると感じた「AIとの共存」「国家のインフラの再定義」「デジタルによる地域創生」という3つの視点からご報告いたします。
AIは「道具」から「パートナー」へ — AIエージェントとAIコンステレーションの衝撃
今回のフォーラムで通底していたのは、AIが単なる「便利な道具」から、自律的に思考しタスクを遂行する「有能なパートナー」へと進化を遂げているという事実でした。その象徴が「AIエージェント」です。
例えば、営業支援のAIエージェントのデモンストレーションでは、商談の音声をAIがリアルタイムで文字起こしするだけでなく、その内容を要約して顧客管理システム(セールスフォース)に自動登録し、さらには次回の商談に向けた提案書の骨子やトークシナリオまで作成していました。驚くべきは、そのシナリオを元にアバターを相手にしたロールプレイングまで可能で、AIが「80点の商談を90点にするにはどうすれば良いか」という具体的な改善点まで提示してくれるのです。これは単なる業務効率化に留まりません。経験の浅い社員でもトップセールスに近いパフォーマンスを発揮できる可能性を示しており、教育や人材育成のあり方、ひいては企業の競争力そのものを根底から変える力を持っています。

さらに一歩進んだ概念として、私の知見を大きく広げたのが「AIコンステレーション」という考え方です。これは、一つの巨大なAI(LLM)に全てを任せるのではなく、それぞれ異なる専門性を持った複数のAIエージェントが、まるで星座(Constellation)のように連携し、一つのチームとして課題解決にあたるというアプローチです。
デモンストレーションでは、私たちがAIと対話する中で「地域密着」「運用効率」「人材育成」といったキーワードを挙げると、「CONNちゃん」と名付けられた司令塔AIがその意図を汲み取り、経営戦略に強いエージェント、財務分析に強いエージェントといった専門家たちにタスクを振り分け、瞬時に「地域中小DXワンストップサービス」という具体的な事業アイデアを提示してくれました。
これは、人間が言語化して入力した指示を処理するだけでなく、対話の中に含まれるニュアンスや暗黙知といった、これまで機械には読み取れなかった領域までを理解し、集合知として昇華させる試みです。まさに、個々の星(AI)の輝きを集め、新たな価値という星座を描き出す—。AIとの協業が新たなステージに入ったことを実感させられる、強烈な体験でした。

ワットビット連携構想とIOWNがもたらすインフラ革命
AIの劇的な進化は、その裏側で「電力の爆発的消費」という深刻な課題を生み出しています。5年後には、AIだけで現在の東京都の総電力量を消費し尽くすという衝撃的な試算もあるほどです。このままでは、日本のエネルギー供給がAIの発展の足かせとなりかねません。
この国家的課題に対し、NTTグループは「ワットビット連携構想」という、まさにコペルニクス的転回とも言える解決策を提示していました 。それは、「電力網(WATT)」と「通信網(BIT)」を一体で捉え、電力をデータセンターに供給するのではなく、「電力がある場所、特に再生可能エネルギーが豊富な地域にデータセンターを設置する」という逆転の発想です。

その核となるのが、コンテナ型のデータセンターです。これは標準的なコンテナサイズで、トレーラーで運搬し、電力源の近くに迅速に設置できます。大規模施設よりも熱処理の効率が良いという意外な利点もあり、まさに機動性に富んだ未来のデジタルインフラです。
そして、全国に分散配置されたデータセンター群を、あたかも一つの巨大なコンピューターのように機能させるのが、次世代の光通信ネットワーク「IOWN(アイオン)」です。現在の通信網とは比較にならないほどの大容量・低遅延・低消費電力を実現するIOWNは、物理的な距離の制約を無意味にします。これにより、例えば北海道の風力発電所の隣で生成AIの学習を行い、その結果を遅延なく東京の本社で利用するといったことが可能になります。これは、デジタル産業の地方分散を促し、地域経済を活性化させると同時に、首都直下地震などの大規模災害に備えたリスク分散にも繋がる、新しい時代の国土計画そのものです。

非地上ネットワークと地域密着ソリューション
総務省の重要な使命の一つは、日本全国、津々浦々まで通信サービスを届け、誰一人取り残さないデジタル社会を実現することです。山間部や離島、そして災害時における通信の確保は、国民の命と暮らしを守る上で不可欠です。
この点において、スターリンク衛星などを活用した非地上ネットワーク(NTN)の取り組みは、大きな希望を感じさせるものでした。海上を航行するフェリーの乗客が途切れることなく雑誌を読めたり、電波の届かない山奥の建設現場で臨時の通信環境を確保したりと、平時においても既に多様なユースケースが生まれています。来年にはスマートフォンと衛星の直接通信サービスも開始が予定されており、災害時における「最後の砦」としての通信手段確保に、大きな一歩となるでしょう。将来的には、衛星で取得した膨大なデータを地上に降ろすことなく、宇宙空間のデータセンターで処理し、必要な情報だけを地上に送るという構想も伺いました。日本の国土全体をシームレスにカバーする、新たな通信のフロンティアが拓かれようとしています。
こうした最先端のインフラは、地域の課題解決に直結してこそ真価を発揮します。その好例が、自治体と住民をつなぐ「LGPF(ローカルガバメントプラットフォーム)」です。
防災、子育て、イベント情報など、これまでバラバラに発信されていた行政サービスを一つのアプリに集約することで、住民の利便性を高めます。さらに重要なのは、自治体側が住民のアプリ利用データを分析し、EBPM(証拠に基づく政策立案)に活用できる点です。例えば、「広報誌のどの記事が、どの地域の、どの年代に読まれているか」を可視化できれば、より住民のニーズに即した情報発信が可能となります。これは、行政サービスのパフォーマンスを最大化するための強力なツールとなり得ます。
また、AIとIoT技術を活用した「陸上養殖」の取り組みは、地方創生の新たなモデルとして非常に示唆に富んでいました。水質管理など専門性が高く参入障壁の高かった養殖業を、AIによるデータ分析でサポートすることで、異業種からの参入を促し、新たな雇用と地域ブランドを創出します。アニサキスフリーのサバなど、付加価値の高い水産物を安定供給することは、我が国の食料安全保障にも貢献する重要な取り組みです。
結びに
今回の視察を通じて、デジタル技術が、もはや単なる効率化の道具ではなく、日本の社会構造、ビジネスモデル、そして私たちの暮らしそのものを、より豊かに、より強靭に変革していく不可逆的な力であることを改めて確信いたしました。AIがパートナーとなり、国土の隅々にまで最適配置されたインフラがそれを支え、その恩恵が地域社会の活性化に繋がっていく。そんな未来の日本の姿が、決して夢物語ではないことを、数々のデモンストレーションが示していました。
総務省として、IOWNをはじめとする次世代通信インフラの全国整備を強力に推進するとともに、その利活用を促す制度的支援に全力を注いでまいります。そして、最先端のデジタル技術が、一部の都市や企業だけでなく、全国の隅々にまで届き、すべての国民がその恩恵を享受できる社会、すなわち「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、引き続き邁進していく所存です。












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