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パリの心臓部を支えるKDDIデータセンターを視察 ― 都市型DCの価値とサウステナビリティへの挑戦

皆様、こんにちは。


先日のOECD閣僚理事会出席のためのフランス・パリ出張の機会に、日本の通信大手KDDIがパリ市内で運営する「Telehouse(テレハウス)」ブランドのデータセンターを視察してまいりました。


日本では今、「AI時代のデータ処理能力向上のため、データセンターを建設すべきだ」という議論が活発です。


しかし、その議論はややもすると「雇用や固定資産税が期待できるから、地方に誘致しよう」という短絡的なものになりがちです。


データセンターが現代社会で果たす真の役割とは何か、そしてなぜ「都市」に立地することに価値があるのか。その答えを探るべく、パリの最前線を訪れました。



厳しい規制下のパリで、なぜデータセンターを運営するのか


今回訪れたのは、パリ環状線内の「Léon Frot(レオン・フロ)」と名付けられたデータセンターです。


もともと銀行だった建物を改築したというこの施設は、歴史的景観を重んじるパリならではの厳しい建築規制のもと、外観はそのままに、内部だけを最先端の設備に入れ替えて運営されています。


驚いたことに、現在パリ市は、電力問題や住民への環境配慮(騒音、排熱など)から、環状線内でのデータセンターの新規建設を禁止しています。

つまり、KDDIが運営するこの都市型データセンターは、極めて希少価値の高い存在なのです。


ではなぜ、これほど厳しい条件下で、あえて都市のど真ん中にデータセンターを構えるのでしょうか。その答えは、データセンターが果たす「役割」にありました。



フランスのインターネットを支える「コネクティビティ・ハブ」


データセンターの役割と聞いて、多くの人は「サーバーを安全に保管する場所」をイメージするかもしれません。しかし、ここ「Telehouse Paris」の最も重要な役割は、フランスのインターネットを相互接続する「コネクティビティ・ハブ」であることでした。


このデータセンターには、フランス国内の主要な通信事業者、クラウド事業者、インターネットサービスプロバイダー(ISP)、そしてコンテンツ事業者などが集結しています。



彼らはここで物理的にネットワークを相互接続(ピアリング)することで、巨大な「インターネット交換所(IX)」を形成しているのです。私たちが普段何気なく利用しているインターネットは、このような結節点を通じて、無数のネットワークが繋がり合うことで成り立っています。



このデータセンターで万が一障害が起きれば、フランス全体のインターネットに大きな影響が出かねないほど、重要なインフラなのです。その重要性から、フランス政府からも重要インフラとして位置づけられ、テロなどの非常時には軍が燃料供給を保証する体制まで整えられていると聞き、その社会的責務の重さを感じました。



AI時代において、この都市型データセンターの価値はさらに高まります。大量のデータを学習させる処理は、電力に余裕のある郊外の大型データセンターで行うことができます。しかし、その学習結果を用いてユーザーの要求に応える「推論」の処理は、応答速度(レイテンシー)が極めて重要になります。



特に金融取引のようなミリ秒単位の遅延が許されないサービスでは、ユーザーに近い都市部のデータセンターが不可欠です。都市型データセンターは、まさにAI時代の神経網の中心を担う存在なのです。



サステナビリティと地域貢献 ― 欧州ならではの先進的取り組み


今回の視察で、もう一つ深く感銘を受けたのが、サステナビリティと地域社会との共生に向けた先進的な取り組みです。



環境への配慮

まず、データセンターで使用する電力は、100%再生可能エネルギーで賄われています。さらに、欧州の涼しい気候を活かし、外気温が10℃を下回ると、外気を利用してサーバーの冷却水を冷やす「フリークーリング」という仕組みを導入しています。


これにより、冷却に必要な電力を大幅に削減し、環境負荷を低減しているのです。日本のデータセンター誘致においても、北海道などが候補に挙がるのは、まさにこの冷却効率の高さが理由の一つです。



地域との共生

最もユニークだったのは、パリ市からの要請に応え、データセンターの屋上に「シェアリングガーデン」を設置していることです。ここは近隣住民の方が無料で登録し、ハーブや野菜を育てる家庭菜園として開放されています。データセンターというと閉鎖的なイメージがありますが、地域に開かれた場を提供することで、見事に共生を実現していました。

さらに、フランスの社会課題である若者の高い失業率に対応するため、教育機関と連携し、恵まれない環境にいる若者たちにITトレーニングの場(教室や設備)を提供していることにも感銘を受けました。単にビジネスを行うだけでなく、その国の課題解決に貢献する。


これは、海外で事業を展開する日本企業のあるべき姿の一つだと感じました。




万全の運用体制と非常時への備え


フランスの重要インフラを支えるデータセンターは、その信頼性を担保するための備えも万全でした。


商用電源が2系統ともダウンするという最悪の事態に備え、まず15分間はUPS(無停電電源装置)のバッテリーで電力を供給します。この一部屋だけで約5,000個、施設全体ではその6倍ものバッテリーが備えられており、その光景は壮観でした。


そして電源喪失から30秒以内には、80時間の連続稼働が可能な4台の大型ディーゼル発電機が自動で起動し、電力供給を引き継ぎます。


常に1台は予備として待機する「N+1」という冗長構成をとることで、いかなる状況でもサービスを停止させないという強い意志を感じました。これらの設備は、24時間365日体制で働く20名のエンジニアたちによって、日々厳格に保守・点検されています。



結びに


今回のKDDIデータセンター視察を通じて、データセンターが単なるサーバーの置き場所ではなく、国家の通信を支え、AI時代の競争力を左右する、極めて高度で戦略的なインフラであることを痛感しました。


日本国内でデータセンターの誘致を議論する際、私たちはともすれば固定資産税や雇用といった目先の利益に目を奪われがちです。


しかし、「なぜその場所に作る必要があるのか」という本質的な役割、エネルギー問題や国際的なネットワーク接続性といった大局的な視点、そして地域社会といかに共生していくかというビジョンがなければ、真に価値のある投資にはなり得ません。


今回の視察で得たこの貴重な気づきは、仲間の議員たちにもしっかりと伝えていきたいと思います。



最後に、世界の厳しい競争環境の中で、日本の社会インフラを支える高い技術力と哲学をもって奮闘されているKDDIの皆様に、心からの敬意を表します。政府としても、こうした日本企業の海外での活躍を、今後も力強く後押ししてまいります。

ご一読いただき、誠にありがとうございました。

 
 
 

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