シンガポールで未来を建設:鹿島建設「The GEAR」訪問記
- HIDETO KAWASAKI
- 5月6日
- 読了時間: 4分
皆様、こんにちは。総務大臣政務官の川崎ひでとです。
今回のシンガポール訪問では、政府関係者との会談に加え、この地で目覚ましい活躍をされている日系企業の皆様と意見交換をさせていただく、大変貴重な機会を得ました。ご多忙の中お時間を割いていただき、心より感謝申し上げます。
特に印象深かったのが、鹿島建設様のアジア地域統括拠点であり、研究開発・オープンイノベーションハブである「The GEAR (Kajima Global Hub for Engineering, Architecture & Real Estate)」への訪問です。

未来の働き方を実装する「The GEAR」
チャンギビジネスパークに位置する「The GEAR」は、単なるオフィスビルではありません。
2023年8月に開業したこの施設は、最先端の研究開発機能と、社内外の知を結集するオープンイノベーション機能が見事に融合した、「生きた実験室(Living Lab)」でした。
建物自体が、シンガポールの環境認証制度「Green Mark」および国際的な健康建築認証「WELL Building Standard」で、ともに最高ランクのプラチナ認証を取得していることからも、持続可能性と利用者のウェルネス(心身の健康)に対する強い意志がうかがえます。
データが導く「真の快適性」と「生産性」
特に興味深かったのは、建物全体をテストベッドとして活用する取り組みです。AIカメラやスマートリング(私も以前サウナで無くしてしまいましたが…)などを活用し、匿名化された利用者の行動データや心拍数・睡眠などのバイタルデータを収集・分析しています。
これは、従来のアンケート調査のような主観的な評価だけでは捉えきれなかった「真の快適性」や「ストレスレベル」を客観的なデータで可視化し、健康で生産性の高い執務空間を科学的に追求する試みです。
例えば、外気を取り入れた冷房のない半屋外空間が、予想以上に快適(室温28-29度でも体感は快適とのこと)で人気を集めているという分析結果は、固定観念を覆すものでした。この技術はシンガポールの教育省も関心を示しており、今後の展開が期待されます。

オープンイノベーションが生む新たな価値
「The GEAR」は、社外の技術やアイデアを取り込む「オープンイノベーション」の拠点としても活気に満ちていました。スタートアップ企業を支援するレジデンシー・プログラムでは、場所の提供だけでなく、実証実験の資金援助を行うこともあると伺い、その本気度に感銘を受けました。
日本の高校生や中学生も修学旅行などで訪れるなど、次世代人材育成にも貢献されており、こうした取り組みをジェトロ・シンガポール事務所のような機関が後押ししていることも、エコシステム形成の鍵だと感じました。
建設DX・GXをリードする先端技術
鹿島建設様が開発を進める先端技術にも目を見張るものがありました。
CO2を吸収するコンクリート「CO2-SUICOM®」: 製造時のCO2排出量を削減するだけでなく、硬化過程でCO2を吸収・固定することで、カーボンネガティブ(CO2排出量が実質マイナス)を実現する画期的な技術です。これは日本のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略にも合致し、国内外での普及が期待されます。
先進的なモニタリング技術: トンネル工事の精度を高める技術や、光ファイバーセンサーを用いた構造物の状態監視技術(南洋理工大学との連携)など、インフラの維持管理効率化に貢献する研究開発も進められていました。
ロボット・遠隔操作: 巡回警備や写真撮影を行うロボットの実演もありました。建設現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、こうした技術の活用は不可欠です。

「Give and Take」で加速するイノベーション
NTT様とのデータプラットフォーム共同開発や、パナソニック様などの技術展示に見られる企業間連携に加え、シンガポール政府との協力関係も印象的でした。許認可の迅速化や研究開発への助成金など、政府が求める成果(R&D、イノベーション)に対して明確な支援を行う「Give and Take」の関係が、イノベーションを加速させていると感じました。
日本への示唆
今回の視察を通じて、シンガポールという国際的な環境の中で、日本の企業が最先端の技術開発とオープンイノベーションを力強く推進されている姿に、大変感銘を受け、多くの刺激を受けました。
特に、データに基づいた客観的なアプローチでウェルネスと生産性を追求する姿勢や、産学官が連携してエコシステムを構築する手法は、日本においても大いに参考にすべき点だと感じています。
また、訪問中に、日本の異なる省庁が別々に視察に訪れている現状にも気づかされました。縦割りを排し、関係省庁が連携してこうした海外での先進的な取り組みを学び、国内政策に活かしていく必要性を改めて痛感しました。

ご案内いただいた鹿島建設の皆様、そしてシンガポールで活躍される日本企業の皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。今回の視察で得た知見を、今後の政策立案に活かしてまいります。
ありがとうございました。
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