【ホンネ会議#40】「NHKのデータをAIに活用」は本当に進むのか? 総務大臣答弁の“裏側”と、立ちはだかる「権利処理の壁」についてホンネで語る
- ひでと 川崎
- 3 日前
- 読了時間: 8分
この記事は、Spotifyビデオポッドキャスト「川崎ひでとのホンネ会議」をAIで要約したものです。コンテンツ配信はコチラから
皆さん、おはようございます。衆議院議員の川崎ひでとです。
11月28日、金曜日。『川崎ひでとのホンネ会議』、今日もスタートです。
今日は放送するテーマを少し悩みました。話したい議題が2つあって、どちらをこの「ホンネ会議」でお話しして、どちらを月額有料会員(プレミアムリスナー)向けにお話ししようかなと。
でも、やっぱりこちらのタイトルは「ホンネ会議」ですからね。今日は皆さんの関心も高いであろう #AI について、私の経験に基づいた、少しシビアな「ホンネ」の部分をお話しさせていただこうと思います。
チーム未来・庵野議員の質問と「前向きな回答」への違和感
さて、今回のテーマの発端は、先日Xで見かけたある投稿です。
「チーム未来」という政党の安野貴博(あんの たかひろ)さんが、参議院の総務委員会で初めて質問に立たれた際の内容についてアップされていました。
安野さんといえば、AIエンジニア出身であり、この分野に非常に明るい方です。その彼が、政府に対して「国産AI開発のために、NHKのアーカイブデータを活用すべきではないか」という旨の質問をされたんですね。
そして、そのXの投稿にはこうありました。
「チーム未来としては、これにNHKのアーカイブデータを活用するという案を提案し、前向きな回答を得ることができました」
この「前向きな回答を得ることができました」という一文を見て、私は思わず「んんっ? 本当に?」と画面に向かって呟いてしまいました。
誤解のないように申し上げておきますが、これは決して安野さんの活動を否定するものではありません。むしろ、AIという重要分野に切り込んでいただけるのは素晴らしいことです。
ただ、私自身、これまで総務大臣政務官として、まさにこの「AIとNHKデータ」の問題を担当してきました。自民党のデジタル社会推進本部や情報通信戦略調査会のメンバーとしても、このテーマにはずっと取り組んできたんです。
その経験から言わせてもらうと、ここには「容易には越えられない巨大な壁」が存在します。
その壁があるにもかかわらず、今の総務省がそう簡単に「前向きな回答」をするだろうか? という疑問が湧いたのです。
そこで私は、事実確認のために、参議院のホームページに残っているアーカイブ動画と、当日の議事録を詳細にチェックしました。
今日は、その国会答弁を紐解きながら、「NHKのデータをAIに食わせる」ことのリアルなハードルについて解説します。
国会で何が語られたのか? 林総務大臣の答弁を解読する
まず、安野さんがどのような文脈で質問されたのか、整理しましょう。
政府が掲げる「信頼できるAI」を作るためには、高品質な日本語データが必要です。インターネット上のデータだけでなく、良質な日本の文化や歴史、習慣が詰まったデータが必要不可欠。そこで目を付けたのが、NHKの過去の膨大なアーカイブデータです。
安野さんはこう質問されました。
「NHKのアーカイブデータをAI開発に活用できるように、法整備や環境整備を行う考えはあるか?」
これに対する林芳正総務大臣(および政府参考人)の回答の要点は、以下の通りです。
放送法上の解釈:NHKが外部の事業者と共同して、アーカイブデータを研究開発(AI学習など)に提供すること自体は、放送法の枠内であり、法に抵触するものではない。
実施の条件:ただし、提供するかどうかは、NHKが公共放送としての役割を踏まえつつ、「コスト負担」や「権利者の保護」等を含めて、自ら検討・判断すべきものである。
政府のスタンス:総務省としては、関係府省と連携し、信頼できるAIの開発力強化に必要な施策を講じていく。
この答弁をどう読み解くか。ここが政治家としての「翻訳」が必要な部分です。
安野さんはこれを「前向きな回答」と捉えられました。
確かに、「NHKがAI開発にデータを提供することは、放送法違反ではないから、やってもいいよ(Legalである)」という点においては、ポジティブな確認が取れたと言えます。NHKが「法律が怖いからできない」と萎縮する必要はない、というお墨付きが出たわけですから。
しかし、私が注目したのは、その裏にある「条件」の部分です。
総務大臣はこう言っています。「コスト負担や権利処理は、NHKが自ら判断してね」と。
つまり、「やってもいいけど、面倒なことは全部NHKが自腹でやってね。国は金も人も出さないよ」と言っているのに等しいのです。
決して無視できない「権利処理」と「コスト」の壁
ここで、皆さんに想像していただきたいのです。
NHKのアーカイブデータとは何でしょうか?
ニュース映像だけではありません。「大河ドラマ」や「朝の連続テレビ小説」、素晴らしいドキュメンタリー番組の数々。そこには、日本の歴史や文化が詰まっています。AIに学習させるには最高の教材でしょう。
しかし、そこには膨大な「権利」が発生しています。
出演している俳優さんの肖像権、背景に流れている音楽の著作権、脚本家の権利、原作者の権利……。これら全てが複雑に絡み合っています。
AIに学習させるためにこれらのデータを提供する場合、以下のどちらかが必要になります。
全ての権利者に許諾を取る:過去何十年分の番組の、全ての関係者に連絡を取り、AI学習への利用許諾を得る。
権利処理が不要な形に加工する:特定の個人の顔にモザイクをかけたり、音楽を差し替えたりして、プライバシーや権利を侵害しないデータに作り変える。
これにかかる労力とコストは、天文学的です。
NHKは受信料で運営されています。受信料を支払っていない方もいる中で、経営には決して余裕があるわけではありません。
「AI開発という国の未来のために、NHKの職員が総出で、莫大なコストをかけて過去の映像の権利処理をします」
……そんなことが、今のNHKにできるでしょうか? 到底無理です。
私が政務官時代にぶち当たった「壁」は、まさにここでした。
「データは有用だ。使いたい。でも、誰がその汗をかき、誰がその金を払うのか?」
この議論になった途端、NHKも、そして総務省も、どうしても及び腰にならざるを得ないのです。
「前向き」という言葉の解像度
今回の国会答弁で、総務省は「国がコストを負担します」とも、「権利処理を特例で免除する新しい法律を作ります」とも言っていません。
単に「現行法の範囲内であれば、NHKの判断でやっていいよ(勝手にやる分には止めないよ)」と言ったに過ぎないのです。
これを「前向き」と捉えるのは、少し楽観的すぎるのではないか、というのが私の「ホンネ」です。
おそらく、林大臣の答弁の最後にあった定型句、「いずれにしましても、総務省としては……必要な施策を講じてまいります」という部分。
ここが、文脈によっては「NHKデータ活用に向けて施策を講じる」ように聞こえたのかもしれません。
しかし、元担当政務官としてこの答弁を「翻訳」するならば、この最後の部分は、
「(NHKデータに限らず)良質な日本語データについては、総務省所管のNICT(情報通信研究機構)などで研究開発を続けているから、そっちの予算はしっかりやっていくよ」
という意味合いで語られている可能性が高いです。役所の答弁というのは、往々にしてそういう構造になっています。
もちろん、安野さんは非常に賢い方ですから、そんなことは百も承知で、「まずは放送法上クリアである」という言質を取ったことを成果として「前向き」と表現されたのかもしれません。第一歩としては確かに重要ですから。
本当に必要なのは「法整備」と「予算」のセット
ただ、実務としてこのプロジェクトを動かそうとするならば、「やっていいよ」だけでは1ミリも動きません。
NHKのアーカイブデータを本当に「国産AI」の糧にするならば、政治がやるべきことはもっと具体的です。
例えば、
AI学習目的に特化した権利制限規定の創設:一定の条件下であれば、個別の許諾なしにアーカイブを利用できるような法改正を行う(これは著作権法上の議論も絡むので非常にハードルが高いですが)。
国による予算措置:NHKが公共の利益のためにデータセットを作るのであれば、その権利処理やデータ加工にかかる費用を、国が補助金として拠出する。
NICT等による代行:NHKに任せるのではなく、国の研究機関がデータを預かり、国の責任で加工・匿名化処理を行うスキームを作る。
こういった「血の通った支援策」をセットで提示しない限り、現場は動きません。
「使えるデータがあるのに使えない」というジレンマは、今の日本のAI開発における最大のボトルネックの一つです。
私は、このNHKアーカイブの活用については、諦めているわけではありません。むしろ、絶対にやるべきだと思っています。
だからこそ、「前向きな回答が得られたからもう大丈夫」ではなく、「ここからが本当の茨の道だ」という認識を共有したいのです。
安野さんとは党派は違いますが、デジタルやAIに対する理解度、そして「日本を良くしたい」という志は通じるものがあると思っています。
今回、彼がこの問題を国会の場で取り上げてくれたことは、議論を喚起する意味で非常に大きな意義がありました。
だからこそ、ここから先、本当にこの「権利処理とコストの壁」をどう乗り越えるか。
法整備が必要なのか、予算の組み替えが必要なのか。
そういった具体的な解決策について、党派を超えて、庵野さんとも一緒に知恵を絞っていけたらいいな、なんてことを本気で思っています。
AIの進化は待ってくれません。
GoogleやOpenAIといった海外勢が圧倒的なデータ量でモデルを構築していく中で、日本独自の、日本人にしか作れない「文脈」を持ったAIを作るには、NHKのアーカイブはまさに「宝の山」です。
この宝を、ただ倉庫に眠らせておくのか、それとも未来への投資として磨き上げるのか。
政治の力が、今まさに試されていると感じています。
というわけで、今日のホンネ会議は、少しマニアックかもしれませんが、日本のAI戦略の核心部分に関わる「NHKアーカイブデータの活用」について、そのリアルな現在地をお話しさせていただきました。
「なんとなく進みそう」な雰囲気だけで終わらせず、具体的な課題を一つひとつ潰していく。それが私たち実務を経験した政治家の役割だと思っています。
それでは、また次回お会いしましょう。じゃあね!











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