ディープフェイク対策PT始動!オードリー・タン台湾初代デジタル大臣からヒアリング
- ひでと 川崎
- 5 日前
- 読了時間: 7分
皆様、こんにちは。川崎 ひでとです。
12月16日(火)、ついにディープフェイク対策PTが始動しました!このPTの設立に奮闘した私としては、この興奮が冷めぬうちに、皆様に初回会合についてお伝えしたいと思います。
⒈縦割りを打破する「合同チーム」の始動
このPTの設立にあたり、私が最もこだわり、注意した点があります。それは、この深刻な問題が「ひとつの省庁や会議体だけで完結できる話ではない」ということです。
テクノロジー、通信インフラ、そして消費者保護。これらが複雑に絡み合う課題に対し、従来の縦割りアプローチでは太刀打ちできません。
デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也 衆院議員)
情報通信戦略調査会(会長・野田聖子 衆院議員)
消費者問題調査会(会長・船田元 衆院議員)
党内の知見を総動員し、省庁横断で解決策を模索する。それだけの覚悟を持って立ち上げた組織です。各会長をはじめ役員の皆様に事前にお願いし、実現いたしました。
平将明座長、平沼正二郎事務局長のもと、私は今回、党の役員としてではなく、デジタル大臣政務官として政府側から出席いたしました。
なぜ、政府の一員である私が、これほどの熱量を持ってこの場に臨んだのか。
それは、現在のネット空間における「なりすまし詐欺」や「ディープフェイク(偽動画)」の被害が、もはや個人のリテラシーで防げる限界を超え、国家レベルの緊急課題となっているからです。
警察庁の報告によれば、SNS型投資詐欺の被害額は本年1月〜10月だけですでに945億円!昨年同期比+197億円。
今年に入ってからは、Instagramなどの画像広告だけでなく、YouTubeなどの動画広告を悪用した手口が急増しています。

昨年4月からは我々の提言を元に各事業者が動いてくれていたのに、どうして…政府としても、総務省や消費者庁を通じてプラットフォーム事業者への要請を続けてきましたが、いたちごっこの状態が続いています。
「今の延長線上の対策では、国民を守りきれない」
その危機感を共有し、抜本的な解決策を探るため、今回の会議には台湾から「最強のゲスト」をお招きしました。
台湾の初代デジタル発展相であり、現在はサイバー特命大使を務めるオードリー・タン(唐鳳)氏、そして東京大学特任研究員の鈴木健氏です。
⒉台湾の勝利宣言――「法規制」と「技術」の融合
オードリー・タン氏のプレゼンテーションは、私たち政府関係者にとって、まさに「目から鱗」の連続でした。

実は台湾も、2023年までは日本と同じ苦しみを味わっていたそうです。政府がプラットフォーム事業者に「自主的な協力」をお願いしても、巨大テック企業は「技術的に難しい」といった理由で十分な対策を行わず、詐欺被害は拡大の一途をたどっていました。
しかし、2024年7月。台湾は「詐欺犯罪危害防制條例」という新しい法律を施行し、この戦いの潮目を変えました。
オードリー氏が語ったこの法律の肝は、以下の「4つの防衛線」です。
⑴入口での完全な身元確認(KYA:Know Your Advertiser)
まず、広告主の身元確認を義務化しました。金融投資などの広告を出す場合、デジタル署名などを用いて「実在する人物・企業であること」を証明しなければ、広告を出稿できません。
「身元不明の広告主からは、広告費を受け取ってはいけない」。このシンプルなルールを法制化しました。
⑵徹底した透明性
広告には「誰が依頼主で、誰が出資者か」を明記させます。さらに、AIやディープフェイクを使っている場合は、その旨を明示する義務を課しました。詐欺師が隠れ蓑にする「匿名性」を、制度として剥ぎ取ったのです。
⑶プラットフォームの「連帯責任」
ここが最も重要なポイントです。
新法では、プラットフォームが詐欺広告の通報を受けた場合、「24時間以内」に削除しなければなりません。もし削除せずに放置し、市民に被害が出た場合、プラットフォーム事業者は「詐欺師と連帯して損害賠償責任を負う」と定められました。
これまでは「騙したのは詐欺師であり、我々は場所を貸しているだけ」という理屈がまかり通っていました。しかし、この法律により、プラットフォーム側にとって「詐欺広告を放置するコスト(賠償金)」が「広告収入」を上回ることになります。
オードリー氏はこう断言しました。
「ROI(投資対効果)の計算式を逆転させたのです。コンプライアンスを守る方が、無視するよりも安上がりになるようにしました」
⑷執行とペナルティ
ルールを守らない場合、1回あたり最大1億台湾ドル(約4億6000万円)の罰金が科されます。それでも従わない場合は、ISPを通じてそのプラットフォームへの通信速度を低下させる「トラフィック管理」を行います。完全に遮断するのではなく、ユーザー体験をあえて劣化させることで、広告ビジネスとして成り立たなくさせるという、極めて実効性の高い措置です。
この結果、どうなったか。
著名人のなりすまし詐欺広告は95%以上減少しました!
かつてFacebookを埋め尽くしていた偽の投資広告は、今ではほとんど見かけなくなったそうです。
⒊なぜ「厳しい規制」が実現できたのか?――デジタル民主主義の力
私たち政府側が特に注目したのは、これほど厳しい規制を導入しながら、なぜ「表現の自由の侵害だ」という反発を招かなかったのか、という点です。
その答えは、鈴木健氏が解説された「デジタル民主主義(Digital Democracy)」の手法にありました。
台湾政府は、法律を作る前に「市民による熟議」を徹底して行いました。無作為に選ばれた市民447人を集め、オンラインで議論を重ねたのです。
その結果、
89%が「AI生成コンテンツの検知・開示」を支持
85%以上が「プラットフォームへの厳格な責任追及」を支持という、圧倒的な**「国民的合意(マンデート)」が可視化されました。
政府がトップダウンで規制するのではなく、「市民がそれを望んでいる」という明確な後ろ盾があったからこそ、グローバル企業も従わざるを得なかったのです。
鈴木健さんの「A(市民熟議)から始めれば、企業との交渉(B)も法制化(C)も進む」という指摘は、これからの日本の政策決定プロセスに対する大きな示唆です。
⒋政府としてすべきこと
今回のPTでの議論を受け、平井本部長や船田会長、野田会長ら党の重鎮とも連携しつつ、私たち政府側も従来の「要請ベース」の対応から脱却し、新たなフェーズへ移行すべき時が来たと痛感しています。
1. 法的枠組みの再構築
現在の日本の法制度(情プラ法など)は、プラットフォーム側の免責が広く認められています。しかし、広告収益を得ている以上、そこには相応の責任が伴うべきですかもしれません。
台湾の「連帯責任」の考え方を参考に、悪質な詐欺広告を放置した事業者に対して法的責任を問える仕組みや、KYA(広告主確認)の厳格化について、関係省庁と連携して真剣に検討を進める必要があります。
2. テクノロジーにはテクノロジーを
オードリー氏は、「AIによる攻撃は、人間の目視チェック(リテラシー)だけでは防げない」と指摘しました。攻撃側がAIで大量の偽情報を生成してくる以上、防御側もAIを活用した自動検知システムを構築しなければなりません。
ファクトチェック機関や民間企業と連携し、AIを活用した対抗手段の実装を支援していく必要があります。
3. 国民の声を聞くプロセスの導入
鈴木健さんから提案のあった「デジタル民主主義2030」のような枠組みを活用し、「この問題について国民はどう考えているのか」を可視化することも重要です。
国民の声を政策の推進力に変えていく。そのためのブロードリスニング環境整備を進めなければなりません。ただし、この部分は政府や自民党で実験的に行うステージではまだないため、私が立ち上げた「PMT研究会」でスタートしてみようと思います。
⒌おわりに
「日本には、このモデルをさらに進化させる力がある」
オードリー・タン氏は最後にそうエールを送ってくれました。日本が持つ「法の支配」の重みと、台湾の「アジャイルな実装力」を掛け合わせれば、きっと解決できると。
この言葉を重く受け止めます。
被害に遭われた方の無念、そして「ネットの情報が信じられない」という社会全体の不安。これを解消するのは、政治と行政の責任です。
デジタル、情報通信、消費者問題という3つの専門調査会が一体となったこのPTからの力強い提言を、私たち政府側がしっかりと受け止め、具体的な法案や制度として形にしていく。そのために、省庁の垣根を越えて汗をかく覚悟です。
台湾からの知見を活かし、日本のデジタル空間を安全・安心なものにするために、全力を尽くします。
引き続きのご注目とご支援を、よろしくお願いいたします。














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