ノエビアスタジアム神戸でのAI実証実験
- HIDETO KAWASAKI

- 2025年9月21日
- 読了時間: 5分
こんにちは。川崎 ひでとです。
先日、総務省が推進する「地域社会のデジタル化に向けた実証事業」の一環として行われている、先進的な実証実験を視察するため、ヴィッセル神戸のホームスタジアムであるノエビアスタジアム神戸を訪れました。この度の視察は、単なる一技術のデモンストレーションに留まらず、我が国が直面する社会課題の解決と、未来の社会インフラの在り方を深く考える、非常に有意義な機会となりました。

〈本題とは逸れますが〉
ノエビアスタジアムのヴィッセル神戸ホーム席の下には発電機があり、観客の皆様の応援の振動(足踏みなど)で発電できるシステムが組まれています。
まさにファンの熱気がエネルギーとなる夢のような仕組みでした!

さて、本題に参りましょう。
スタジアムが映し出す現代社会のジレンマ
サッカーチーム#ヴィッセル神戸の人気も相まって、数万人の観客が熱狂するノエビアスタジアム。そこは感動を共有する特別な空間ですが、その裏側では、現代社会が抱える大きな課題が先鋭化しています。
一つは、「通信の輻輳(ふくそう)」です。来場者の多くが同時にスマートフォンを利用するため、通信ネットワークには膨大な負荷がかかり、いわゆる「繋がりにくい」状態が発生します。
もう一つが、「安全の確保」です。不審者の侵入や急病人の発生など、予期せぬ事態への備えは不可欠です。しかし、多数の監視カメラが高画質な映像を常に伝送し続けることは、通信ネットワークをさらに圧迫する要因となっていました。
通信の安定という「利便性」と、監視による「安全性」。この二つを高いレベルで両立させようとすると、有限な通信インフラの上で互いがリソースを奪い合うという、構造的なジレンマに突き当たります。今回の実証実験は、この根深い課題に対し、AIという最先端技術を用いて真正面から挑むものでした。
解決の鍵「 #エッジAI 」
このプロジェクトの中核をなすのが、「エッジAI」という技術です。これは、全てのデータを一度遠くのサーバーに集めてから分析する従来のクラウド方式とは異なり、データを生み出す現場、すなわち監視カメラ側にAI処理能力を持たせるものです。
カメラがリアルタイムで映像を解析し、「ただ人が通り過ぎる」という平常時の映像は送信しません。一方で、「立ち入り禁止エリアに人が滞在する」といった異常事態を検知した瞬間に、その事象だけを切り出して、テキスト情報と画像、短い動画といったコンパクトなデータ形式で警備員の持つスマートフォンへ通知します。(後述)
全ての情報を送るのではなく、「意味のある情報」だけを送る。これにより、通信量を劇的に削減し、ネットワーク全体の負荷を低減させることができるのです。

現場で体験した「未来の警備」
デモンストレーションでは、私自身も通知を受け取る側のスマートフォンを手に、その実力を体験させていただきました。
スタジアム内のエリアへの短時間の侵入は「低リスク」と判断され、手元のスマートフォンにはテキストと静止画で通知が届きました。一方、10秒以上の滞在といった「高リスク」と判断される事象では、テキストと共に動画が送られてきました。
これにより、警備員は現場に駆け付ける前に、不審者の具体的な行動を映像で確認でき、より的確な初動対応が可能になります。
特に感銘を受けたのは、通信が混雑した状況を想定したシミュレーションでした。この状況下では、たとえ高リスクの事象を検知した場合でも、システムが自動的に判断し、動画ではなくデータ量の少ない静止画で通知を送るのです。
これは、非常時において「完璧な情報」を待つあまり何も伝わらないという最悪の事態を避け、「まずは最低限の重要な情報だけでも確実に届ける」という、極めて実践的な思想に基づいた設計です。この動的な対応力こそ、真に現場で使える技術の証左であると感じました。

地域社会の課題解決への広範な可能性
この技術が持つポテンシャルは、スタジアムのセキュリティという一分野に留まるものではありません。楽天モバイル社の皆様が語る将来展望は、まさに日本の未来図そのものでした。
例えば、
災害対応。通信網が寸断されがちな被災地において、避難所の状況把握や、衛星通信と連携した孤立者の捜索などに活用できる可能性があります。
また、北海道のヒグマ対策のように、「不審者」の定義を「不審な動物」に置き換えることで、農作物被害や人身被害の防止に応用できるというアイディアも示されました。
さらに、常設カメラの設置が難しい野外イベントなどでは、ドローンにエッジAIを搭載して上空から監視を行うといった、より機動的な活用も考えられます。
終わりに
今回の視察を通じて、デジタル技術は、単に業務を効率化するだけでなく、人々の生命と財産を守り、社会の持続可能性を高めるための重要な基盤であると改めて痛感いたしました。
楽天モバイル様、AWL様、三菱総合研究所様、そして楽天ヴィッセル神戸様によるこの度の取り組みは、民間企業の皆様の卓越した技術力が、社会全体の利益に繋がりうることを示す素晴らしいモデルケースです。
我々総務省としては、このようなデジタル技術の社会実装を強力に後押しし、それが一部の都市だけでなく、全国津々浦々の地域社会にまで行き渡るよう、支援を続けていく責務があります。
本日拝見した技術の種が、日本全国で芽吹き、国民一人ひとりの安心・安全な暮らしという果実を実らせる日まで、皆様と共に歩んで参りたいと、決意を新たにした次第です。関係者の皆様の情熱とご尽力に、心からの敬意と感謝を申し上げます。











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